菅野 重樹 理工学術院教授


菅野重樹
理工学術院教授

1981年、早稲田大学理工学部機械工学科を卒業し、1986年に同大学大学院博士後期課程を経て理工学部助手に。つくば万博において、日本政府テーマ館で展示実演された鍵盤楽器演奏ロボットに関する研究結果を発表して以降、人間共存ロボットの分野において先駆者たる加藤一郎教授の継承者の一人として注目を浴びる。1992年に早稲田大学理工学部助教授を経て、1998年より教授。人間と同じ生活空間で、人間の生活の手伝いをしてくれるロボットの実現を目指し作業性と安全性を追求したロボット「TWENDY-ONE」を2007年に発表し、世界的に高く評価されている。


Q:知能機械学研究室という研究室でロボットの研究をなさっていますが、具体的にどのような研究なのか教えてください。

私たちが行っているロボット研究は、大きくふたつに分けられます。一つ目は、私の研究室で開発した「TWENDY-ONE」に代表されるように、人間とともに共存することができる、つまり人間に近づくという方向性を持った研究です。もう一つは農業や建設現場などで、人間の役に立つロボットの研究になります。
このふたつは大きな違いがありまして、例えば「楽器を弾くロボット」を研究するとしましょう。目の前にピアノがあって、ロボットが演奏する。その際、前者の研究の場合は、人間に近づくということが目的ですから、人間の形をして、人間の動きをまねして鍵盤を弾くことが求められます。しかし後者の場合は、極端な話81本の指があるオートピアノということになるわけです。
そういう違いもある中で、私が現在主に研究をしているのは人間と共存できるロボットです。そしてその成果を実用的なロボット開発にも応用しています。人間共存の究極は人間機械論なのですが、本当に人間と共存できる機械は、「モノ」というよりもある意味人間に近づかなければなりません。知能や感情、コミュニケーション、そして機械自身が「生きよう」とする意思。こうしたものをロボットに持たせていく必要があるわけです。極端に言えば、人間や動物はどのような体のつくりをしていて、どうやって生きているのか、これらを機械の研究を通じて調べる作業であると言い換えることもできるでしょう。ロボットが自己保存意識を持ち、自らを生きながらえさせようとすると、そこに自然に知能や感情が創出されるのではないかという仮説の上に、実際にロボットを作っているわけです。


Q:現在のご活動、ご研究の道へ進まれたのはどのようなきっかけだったのでしょうか?

実は私が中学生のころ、早稲田大学でロボット研究の先駆者であった加藤一郎先生が「WABOT-1(WAseda roBOT)」という世界で初めてのヒューマノイドロボットをプレスリリースなさったのです。1973年のことでした。当時私は技術的な話が大好きな少年でして、それこそ「宇宙戦艦ヤマトの中身はどうなっているんだ?」など、同じような科学好きの仲間たちとともに議論していたりしたのです。その当時は、飛躍的に科学技術の進歩が謳われた時代でもありました。新幹線はすでに走っていましたし、アポロも月面着陸を成功させていました。そうしたことが背中を押して、私自身もどんどん科学技術に取りつかれていったのです。
もともとモノづくりが好きだったこともあり、大学進学を決める際に「早稲田でロボットの研究をやりたいな」という気持ちが強く、必然的に早稲田大学への進学を選びました。ちょっと面白い話として、実は入学してすぐに加藤先生の研究室に押し掛けたんです。先生はお忙しくご不在のことも多かったのですぐにはお会いできませんでしたが、わざわざ時間をつくってくださり、なんと加藤先生自ら研究室を丁寧に案内してくれたのです。そのときに研究室にあったのは、人間と密接に関わる義手義足やロボットでした。人工の手足と呼ばれる開発途中のものがたくさんありました。「おもしろい!」と感じて、3年生になるのが待ちきれませんでした。3年次のゼミ選択で加藤ゼミを熱烈に志望したのですが、加藤ゼミは人気があるゼミでしたから、結果的にくじ引きでゼミに入れるかどうかが決まることになります。たいへん幸運なことに、私は一番で当たりくじを引くことができました(笑)。


Q:現在のご活動、ご研究を将来的にどのように役立てていきたいとお考えですか?

日常生活支援という部分で、現在の社会に顕在化している問題に対して、役立つ研究結果、データを提供したいというスタンスは研究者を志してから変わってはいません。
たとえば昨今では高齢化社会が叫ばれていますが、特別養護老人ホームなどで人間をサポートする機械の導入があると介護現場の問題解決に貢献できるのではないかという見方があります。たとえば、おむつ替えなど、個人のプライバシーにかかわることを、今は人間が手作業でやっていますよね。入居者としては、あまり人にやってほしくないと思うことだって当然ながらあるのです。それが自動でできるとどうなるでしょうか? また家庭内介護で家族に迷惑をかけたくないなど、被介護者が苦痛に思うことをロボットの導入で少しでも緩和できることができれば、それに越したことはないと思います。とはいえ、これは人間とロボットが入れ替わるということではありません。人間と人間のコミュニケーションは非常に大事なので、人間の労働をサポートする、つまり人間とロボットがペアになって作業をするという光景をイメージしているわけです。
しかし、そのためには超えなくてはいけないハードルは山ほどあります。まずはコストの問題です。「TWENDY-ONE」は、本当に人間共存を実現するために必要な機能をすべて検証するために、考えられる機能はすべてつけています。しかし、一般販売用で同じ機能をつけてしまうと、とてつもない販売価格になるのは目に見えています。そこから用途によってはずせるものは何かを共同開発する企業にフィードバックするためのデータを、私たちは常に提供しています。高級車を維持することと同じようなことなので、メンテナンスはどうするのか、修理のインフラはどうなるのかなど、社会的にロボット導入の仕組みが受け入れられる環境づくりも必要になってきます。また、仮に事故が起きてしまった場合の保険や法的な解釈なども、必ず問題となってきます。こうした議論を前向きに、かつスピーディに進めるために、私たち研究者はどのようなデータを提示していくべきなのか、そこに焦点を当てて、今も研究を続けているのです。


Q:寄付金による支援活動についてどのようなご感想をお持ちでしょうか?

人材育成のために非常に有意義なものであることは言わずもがなですが、こうした寄付金が早稲田大学自身の研究者育成にとって大変重要なものである理由があります。
その理由は、研究者となりえる人材を確保し、将来的に永続性のある研究の積み重ねを行っていく資金となることです。
たとえば寄付金によって学内の研究施設が充実していけば、博士課程に進んだ際の研究の一層の発展が見込まれます。ドクターを志望する学生は当然ながらより充実した環境で研究をしたいと考えますから、そこに粗があると優秀な人材が国立大学に流れて行ってしまうのです。国立は大学院を重点化していますから、人材を集めたくて仕方がない。
もしここで人材が外に奪われていくようなことがあれば、早稲田大学で独自に研究してきた内容や理念などを継承することができにくくなります。できないと断ずることはできませんが、奨学金が整っており、充実した環境によって技術の継承がスムーズにいくような状態を維持し続けることが、早稲田大学の発展、そしてさらには日本全体の科学技術の発展につながるのです。
そうしたバックアップとして、早稲田の卒業生たちには、母校を支える気持ちとともに、母校が誇る技術を守るという意識でご寄付のことをお考えいただければ、実りある展開になるのではないでしょうか。